結婚して7年、夫の自営業を「二人三脚で支えよう」と思っていた時期が、確かにあった。
でもいつの間にか、私はただの「便利な道具」になっていた
——そう気づいたのは、初めて接待を断った夜のことだ。
「今夜も来てくれるよな?」が口癖になった夫
夫は雑貨の卸売りを一人でやっている。規模は小さいが、付き合いを大切にするタイプで、取引先との食事は月に3〜4回ペースだった。
問題は、その席に私が「当然のように」呼ばれることだった。
「席を予約しといてくれ」「お酌のタイミング見てくれ」「注文まとめてくれ」。
夫が口を開くのはそれだけで、あとは私が場を回す。
取引先の担当者は感じのいい方が多く、「奥様、気が利きますね」と褒めてくれる。でも夫はその言葉を、まるで自分の手柄のように受け取っていた。
事前の相談は一切ない。「今夜7時、○○で接待がある」と当日の昼にLINEが来て、断ると機嫌が悪くなる。
私にも仕事がある。予定がある。
でも夫にとって私の時間は「どうせ空いてる」扱いだった。
「先約があります」と返したら、鬼電が来た
転機になったのは、3月の木曜日だった。
「今夜、大口の取引先と食事になった。来てくれるよな?」とLINEが届いたのは、その日の午後2時。
——無理だ。
その日は、地元の友人グループで半年ぶりの食事会を入れていた。幹事は私で、すでにお店に人数分の予約を入れてある。キャンセルなんて絶対にできない。
「先約があって無理です。ごめんなさい」と返信した。
5分後、電話が鳴った。
「は? 今夜だぞ? 友達との飯より大事な案件があるんだけど」
「半年前から決まってた食事会だよ。幹事なの、私」
「俺の仕事の方が優先だろ、普通に考えて」
——普通に考えて? どっちが非常識なんだろう。
夫は「わかった、一人で行く」と言い残して電話を切った。その声は怒りより、どこか不安を含んでいた。
「奥様はいらっしゃらないのですか」と取引先に聞かれ、夫が固まった
夫は一人で個室の席に通された。
ところが、いざ始まってみると何もかもが狂い始めた。
注文のタイミングがわからない。取引先のグラスが空いても気づけない。話の合間の間が持てない。締めの料理を頼み忘れ、お会計のタイミングも読めなかった。
毎回私が場を仕切っているのを知っている取引先の担当者が、ふと口を開いた。
「あの……今日は奥様はご一緒でないのですか?」
夫は「都合が悪くて」とごまかした。でも担当者はさらに続けた。
「いつもお気遣いいただいて、奥様には本当に助かっています」
——返す言葉がなかった、と夫は翌朝ぽつりと言った。
それは私への感謝であって、あなたへの評価じゃない。——私はそう思いながら、黙って聞いていた。
初めて「俺が悪かった」と言った夫に、7年分を静かに伝えた
「……俺、全部お前に任せすぎてたな」
その言葉は正直、7年遅かった。でも私は怒鳴らなかった。ただ静かに聞いた。
「任せてたんじゃなくて、丸投げしてたんだよ。しかも当日呼んで、断ったら怒って。私、何回も予定キャンセルしたんだけど、覚えてる?」
夫はしばらく黙っていた。
「……覚えてる」
「接待に同席するのは構わない。でも事前に相談してほしい。私の都合も聞いてほしい。それだけ」
夫は「わかった」と言った。今度は不安のない声で。
あの夜から、夫は変わった
あの夜を境に、夫は変わった。
接待の予定は少なくとも3日前には共有するようになった。「都合どうかな」と聞いてくるようになった。「今日ありがとう、助かった」も言えるようになった
——小さいけど、それが7年越しの進歩だった。
取引先との関係も、あの日を乗り越えて続いている。夫が一人でがんばった姿は取引先にも伝わっていたらしく、後日「あの日はご苦労様でしたね」と笑って言ってもらえたそうだ。
私が断らなければ、夫は一生気づかなかったかもしれない。
「当然」を疑わずに、私を使い続けていたかもしれない。だから私は、あの日「無理です」と返信してよかったと思っている。
さいごに
「断る」ことは、関係を壊すことじゃない。むしろ、ずっと見えていなかったものを相手に見せる、最初の一歩になることもあるかもしれませんね。
自分の時間や労力が「当然のもの」として扱われていると感じたとき、その違和感はきっと正しい。同じようにモヤモヤを抱えている方に、少しでも届いたら嬉しいです。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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