中途入社というのは、思った以上に「よそ者」として扱われることがある。入社してすぐ、私はそれを肌で感じた。
総務部に配属された私を待っていたのは、10年以上その部署に居座る先輩女性3人のグループだった。
「中途さんには関係ない話だから♪」
最初に異変を感じたのは、入社から2週間が経ったころ。
部内の朝礼が終わったあと、先輩のひとりが残りのメンバーだけに何かを耳打ちしていた。私が「何かありましたか?」と声をかけると、にこやかな笑顔でこう返ってきた。
「あー、中途さんには関係ない話だから♪ 気にしないで」
その”♪”がついた言い方が、妙に引っかかった。
それ以来、業務に関わる小さな申し合わせ、備品の変更、フロアのルール変更……どれも私だけに回ってこなかった。
気づいたら変わっていて、「知らなかったんですか?」と首をかしげられる。
——そういうことが週に2、3回は起きた。
「なんで私だけ?」が積み重なっていく
ランチに誘われることはなかった。それはまだいい。
問題は、業務上の引き継ぎやナレッジ共有が、意図的に私を外して行われていることだった。
「先週の会議の議事録、共有しましたよね?」と聞くと、「あ、配布リストに入ってなかったみたい、ごめんね」と言われる。次の週も同じことが起きる。その次も。
「ごめんね」は一度も本気に聞こえなかった。
悔しくて眠れない夜もあった。転職したばかりで相談できる人もいない。
家に帰って天井を見ながら、「私、何か悪いことした?」と何度も自問した。——でも、答えは出なかった。
感情で動いても何も変わらない。そう気づいたのは、入社1か月が経ったころだ。
「記録するだけ」と決めた日
私はその日から、小さなノートを一冊買った。
毎日、起きた出来事を日付・時刻・状況・発言者・発言内容という形で淡々と書き続けた。感想は書かない。事実だけを書く。
「10:30 備品発注の変更を口頭で共有。私は当日席にいたが知らされなかった」
「14:00 議事録メール、全員にCCあり。私のアドレスのみ外れている」
こういった記録が、3か月で50件を超えた。
同時に、メールやチャットのログもフォルダに整理した。「存在しない」ことにされていた自分の発言が、ちゃんとタイムスタンプとともに残っていた。
証拠は、積めば積むほど重くなる。
メモ帳を持って、コンプライアンス窓口へ
入社から半年が経ったある日、決定的な出来事があった。
大切な取引先との対応で私が担当になっていたにもかかわらず、先輩グループが私を外して先方に連絡を入れ、勝手に対応を進めていたのだ。取引先から「担当の方が変わったんですか?」と確認の電話が入り、初めて発覚した。
——これは、もう業務妨害だ。
私は翌週、コンプライアンス窓口のフォームから相談を送った。6か月分のメモ帳と、メールログをまとめたファイルを添付して。
感情的な訴えは一切書かなかった。「以下の事実が継続的に発生しています」という書き出しで、淡々と事実を並べた。
3人に「異動辞令」が出た日
コンプライアンス窓口から返答が来たのは、相談から10日後だった。
人事部と連携して調査が入ることになった、と。その後、私には詳細は知らされなかったが、2週間後の朝礼で部長から「組織再編に伴う異動」が発表された。
あの先輩グループ3人全員が、別の部署に異動になっていた。
あっけないほど静かな幕切れだった。私は何も言わなかった。ただ、手元のノートをそっと引き出しにしまった。
透明人間じゃなくなった職場で
異動後、部署の空気は一変した。
後から入ってきた新しい先輩は、何でもなく業務の情報を共有してくれる。朝「おはようございます」と言えば、ちゃんと返ってくる。——それだけのことが、こんなにも違うのかと思った。
私はいま、あのノートを捨てずにとってある。戒めとして、ではなく。「ちゃんと動けば、ちゃんと変わる」という証拠として。
さいごに
理不尽な扱いを受けているとき、感情のまま動きたくなる気持ちはよくわかります。
でも「静かに記録する」という選択が、結果的に一番遠くまで届くこともあるかもしれませんね。声を荒らげなくても、事実は嘘をつかない——あの半年間が、そのことを教えてくれました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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