家族用の社宅の玄関に、見覚えのないパンプスが置かれていた日がありました。洗面所にも強い香りが残っていて、「来客の予定なんてないのに」と首をかしげていました。
その疑問の答えは、最悪のかたちで現れました。
「これから一緒に暮らす。子どもは置いてけ」
夕食の支度をしていたら、夫が女性を連れて帰ってきました。玄関で靴を脱ぎながら、夫は言いました。
「紹介する。これから一緒に暮らす。お前は出てけ。子どもは置いてけ」
私の横で、小学生の娘が箸を握ったまま固まりました。冗談で済ませられる話ではありません。
「子どもは一緒に行くよ。ここは家族用の社宅だよ」
「名義は俺。俺の家だ」
夫はそう言い切りました。女性は何も言わず、勝手にリビングのソファに座りました。
「社宅は家族以外NG、覚えてる?」
娘を抱き寄せて、必要なものだけバッグに詰めました。学校の連絡帳、保険証、通帳。寝間着の袋を持った娘に、「今日はおばあちゃん家に行こう」と声をかけました。
玄関で夫が腕を広げて立ちふさがります。
「連れ出すな。明日学校だろ」
「だからこそ。ここで眠れない」
社宅の入居時に受け取った冊子に「家族以外の同居禁止」と太字で書いてあるのを、私は覚えています。実はここ数カ月、夫のカバンからホテルの領収書が出てきて、掃除のついでに写真を残していました。キッチンに置きっぱなしの夫のスマホの画面に「社宅でも一緒に住めるよ。名義は俺だし」というメッセージが表示されているのを見て、写真を撮りました。子どもを巻き込む前に、事実だけは持っておこうと思ったからです。
その夜、娘を連れて私の実家へ。落ち着いてから、社宅管理の窓口に連絡を入れ、事情を伝えました。同時に弁護士にも相談し、夫と女性宛ての通知準備をお願いしました。
「ご同居の方の続柄を確認します」
会社は居住実態の確認を始めました。翌週、社宅管理担当と人事の担当者が確認を行うと連絡が入りました。私は別居中なので立ち会いはせず、名義人である夫への連絡に同意しました。
点検当日、担当者が夫に声をかけたと報告がありました。「ご同居の方の続柄を確認します」。夫は「婚約者だ」と説明したと聞きました。
「家族以外の同居はできません。退去か、入居資格のある家族のみにしていただく必要があります」
担当者は、冊子の該当ページを示し、居住の状況を確認したといいます。部屋には女性の衣類や生活用品があり、同居の事実が確認された、と報告がありました。
「規定違反の同居が確認されました」
一カ月後、登録されていた同居家族である私にも、社宅管理から退去期限の通知が届きました。規定に反する同居が確認されたため、名義人である夫の社宅使用を終了する、という内容です。会社側の処分の有無や詳細は、個人情報のため私には伝えられませんでした。
不貞に関する手続きは社宅の問題と分け、弁護士を通して進めました。数カ月のやり取りの末、夫と女性は関係を認め、慰謝料や別居費用について書面で合意しました。夫とは養育費の話も進め、今後の連絡は弁護士経由に限定しました。
「出ていくのは、あなたの方だ」
夫から私のスマホに何度か着信がありました。「戻ってこい」「話をしよう」。私は返信しませんでした。娘には学校と実家を行き来する新しいリズムができ、夜は私の布団に潜って眠ります。
社宅に住めるのは、規程で認められた家族です。名義を盾に私と子どもを切り離そうとした夫は、結局、自分の社宅使用資格を失いました。
その後
慰謝料は引っ越し費用と、しばらくの生活の備えに回しました。私は仕事のシフトを増やし、娘の登校時間に合わせて実家から通わせています。離婚は急がず、養育費と面会の条件を先に固めるつもりです。夫からの連絡は弁護士が受け、直接の接触は止まりました。
さいごに
家の名義や立場を振りかざしても、家族の安心までは奪えません。読んでいて胸がざわついた方もいるでしょう。もし身近で「おかしい」と感じたら、ひとりで抱えず、頼れる窓口に声をかけてみてください。あなたなら、どこに最初の一本の電話をしますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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