祖母が逝って、最初の悲しみが少し落ち着いてきた頃のことだ。
形見分けの席で、母に「あなたの分はないから」とさらりと言われた。
その言葉が、しばらく頭の中をぐるぐると回り続けた。
「もう全部決まった」——私だけ呼ばれなかった日
連絡が来たのは、形見分けがすでに終わった後だった。
「先週、みんなで集まって決めたの。あなたは遠いし、忙しそうだったから」
遠い、といっても新幹線で2時間の距離だ。
忙しそう、というのも母の憶測でしかない。連絡一本くれれば行けたのに
——そう伝えると、「もう片付いたことだから」と話を打ち切られてしまった。
祖母が大切にしていたアンティークのブローチ。花の形をした、小ぶりだけど存在感のある一品で、私は幼い頃からそれをつけた祖母の姿を見て育った。
「いつかあなたにあげる」と言われた記憶もある。それがどこへ行ったのかすら、私には知らされていなかった。
納得できないまま、でも波風を立てたくない気持ちもあって、その場はぐっと飲み込んだ。
叔母の棚に、あのブローチが飾られていた
数週間後、別の用事で遠縁の叔母の家を訪れた。
リビングの棚に、見覚えのある光沢が目に入った。花の形。小ぶりな金色のフレーム。
——あのブローチだ。
「それ、どうしたんですか」と聞くと、叔母は少し困った顔でこう言った。
「お母さんに頼まれて、預かってるの。形見分けのときに渡すのが難しかったって」
難しかった、という言葉の意味が、すぐには飲み込めなかった。
形見分けの場に私はいなかった。母が「来なくていい」と判断して連絡しなかった。なのに、ブローチは叔母のところへ渡っていた。——いったい、どういう経緯なのだろう。
「あなたのため」が、遠回りしすぎた
叔母の家を出てから、実家に電話をかけた。
「あのブローチ、叔母さんのところにあったよ」
少しの沈黙の後、母は言った。
「……あなたに渡したかったんだけど、みんなの手前、特別扱いできなくて。叔母さんに預けておけば、あとでこっそり渡せると思って」
そういうことか、と思った。
悪意があったわけではない、と頭ではわかる。むしろ私のことを思っての行動だったのかもしれない。
でも——事前に一言あれば、こんなにもモヤモヤしなかったのに。
「こっそり」という選択が、私をこんなに混乱させるとは思わなかったのだろうか。
怒りとも悲しみとも違う、なんとも言えない感情がじわじわと広がった。
母の「優しさ」が、回り道をしすぎて私を傷つけていた
——そういうことって、親子の間では案外あるよな、と思った。
さいごに
大切な人を亡くした後の家族の時間は、思いのほかバラバラで、すれ違いが起きやすい。
「あなたのため」という気持ちが、伝わらないまま走り出してしまうこと——親子の間では、特に多いのかもしれませんね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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