キッチンに立つたび、背中にため息が刺さる。「また無駄なもの買って」。洗剤の詰め替え一つで責められる日々。
同居は三年目。ここは夫の実家、台所の主は義母。私は家族の一員のつもりで回してきたけれど、買い物袋を置く手が震えることが増えた。
「嫁は浪費家、出ていきなさい」
最初はレシートの確認からだった。「レシート出して。嗜好品ばっかり」。コーヒーフィルターも柔軟剤も、義母には“嗜好品”。
「嫁はお金の感覚がゆるい。そんな嫁はいらない。出ていきなさい」。言い方はだんだん強くなった。
言い返せば長引くのは分かっていた。私は受け流し、必要な物は自分の財布から出した。家で使う電気・ガス・水道・ネットは、同居の段取りで私の名義。食材の定期便も、帰宅後の買い出しを減らすために私が契約していた。
「生活費は私が締めるから」
ある日、義母は封筒を並べて言った。「生活費は私が締めるから。欲しいものは申請して」。
夫の給料日のたびに現金封筒が増え、私は週ごとの予算を渡される。渡された額で四人分の食卓を整え、洗剤や調味料を補充するのは無理がある。足りない分はまた私の口座から出した。
「浪費家のせいでお金が消える」。そう言われるたび、私は台所の引き出しを開け、光熱費の契約メモを確かめた。通帳の明細には、電気・ガス・水道・ネット、食材の箱の代金が私の名義で並んでいる。ここでやっていることを“浪費”と呼ぶなら、やらない選択もある。
「じゃあ今すぐ出ます」
決定打は、親戚を招く前日の一言だった。「嫁は口だけ。出ていきなさい」。
私はエプロンを外した。「分かりました。今から荷物まとめます」。
義母は眉を跳ね上げた。「は? 冗談でしょ」。
「冗談じゃないです。ここで暮らすのはもう無理です」。
自室で最低限の着替えと書類をスーツケースに入れる。夫が追ってきて、「本気か」と小さく聞いた。
「本気。あなたがここに残るなら、それはあなたの選択。私は出る」。
その日のうちに短期の部屋を押さえ、名義が私のものは解約手続きを進めた。電気・ガス・水道・ネットは月末で止める。食材の定期便は次回から停止。テーブルにノートを置き、各契約の連絡先と手順を書いた付箋を挟んだ。
玄関で鍵を返し、最後にだけ伝えた。「光熱費などの契約は私の名義なので、今月で止まります。必要なら新しく手続きしてください」。
「ネット? 電気? どうするの」
数日後、携帯が鳴った。義母からだ。「ネットがつながらない。食材の箱も来ない。どうするの」。
「私名義の契約は止めました。必要なら、お義母さんの名義で申し込んでください」。
「そんなの、私には分からない。すぐ戻って」。
「『出ていきなさい』と言われたので、出ました。家事も支払いも、望まれないならやりません」。
電話の向こうで言いよどむ気配。今度は夫に代わった。「母さん、困ってる。手続きだけでも…」。
「やり方はテーブルのノートに書いてある。窓口で聞けば教えてくれるよ。私はもうこの家の家事担当じゃない」。
その後、義母は役所や窓口を回り、契約の初期費用を払い、待ち時間に文句を言い、夕食の支度に追われたと聞いた。親戚の集まりは出前に切り替わり、片付けは夫が夜遅くまでやったらしい。
一週間ほどして、夫から連絡が入った。「母さんとは別居しようと思う。母さんには、自分の生活は自分で回してもらう」。
ほどなく義母からも短いメッセージ。「いつもの封筒の額じゃ足りない。電気代もネットも高い。どうして今まで黙ってたの」。
「黙ってたんじゃなくて、やってただけです」。私はそれだけ返し、やり取りを終えた。
その後
私は自分の鍵で自分の玄関を開ける暮らしに戻った。自分の財布から出る支出だけを把握し、食べたい物を買い、誰にも「嗜好品」と言われない台所を持つ。
夫も一緒に住み始めて、休みの日に一緒にスーパーへ行くようになった。義実家とは距離を保ち、頼まれたら手順だけ伝える。家事もお金も、それぞれの家の中で回す。私たちはそう決めた。
さいごに
「出ていけ」に本当に出たら、見えていなかった負担が顔を出しました。家の中の“当たり前”、抱え込みすぎていないでしょうか。似たもやもや、ありませんか。あなたなら、どこで手を放しますか。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



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