玄関のチャイムが鳴るたび、少し身構えるようになった。
また、あれかもしれない。冷蔵便の箱を受け取り、台所へ運ぶ。
箱を開ければ、保存容器に詰められた煮物や揚げ物、下味のついた肉がぎっしり入っている。
冷蔵庫は、もうほとんど空いていなかった。
「余ったから送っといた」
始まりは、義母からの短いメッセージだった。
「煮物が余ったから送っといたわ。明日届くと思う」
最初はありがたかった。
仕事から帰って一品作らなくて済むだけでも助かる。
「ありがとうございます」
そう返した。
ところが、その翌週にも荷物が届いた。
さらに、その次の週も。
煮物、揚げ物、漬け込んだ肉、買いすぎたという野菜。
どれも悪いものではない。でも量が多かった。
「これ、いつまでに食べればいいんだろう」
容器を冷蔵庫へ入れながら、毎回考える。
私たち夫婦は共働きで、平日の献立はある程度決めていた。
買い物も済ませている。
そこへ予告なく大量の食べ物が加わると、予定していた食材を先に使うべきか、届いたものを優先するべきか分からなくなる。
食べきれないものは冷凍する。
でも冷凍庫にも限界がある。
義母から荷物が届くたび、冷蔵庫の中身を組み替えるようになった。
「家族なんだから受け取ればいいのよ」
ある日、私は義母へ電話した。
「いつもありがとうございます。でも、最近ちょっと量が多くて。送る前に一度聞いてもらえると助かります」
できるだけ角が立たないように言った。
義母は明るく答えた。
「そんなの気にしなくていいのよ。余ったものを送ってるだけなんだから」
「でも、食べきれないこともあって」
「冷凍すればいいじゃない」
「冷凍庫も結構いっぱいで」
すると義母は笑った。
「家族なんだから、そんな遠慮しないで受け取りなさいよ。食べ物を捨てるほうがもったいないでしょう?」
言っていることは分かる。
でも、義母の家で余ったものを捨てないために、こちらの冷蔵庫がいっぱいになるのも違う気がした。
結局、その電話では話がかみ合わないまま終わった。
届いたものを処理するのは、ほとんど私
夫にも相談した。
「またお義母さんから届いたよ」
「ありがたいじゃん」
最初はそんな反応だった。
「でも、もう入らないんだよ。冷蔵庫見て」
夫がドアを開けて、「うわ、ほんとだ」と笑った。
私は笑えなかった。
届いた容器を確認する。冷蔵と冷凍に分ける。
食べる順番を考える。自分たちが買った食材の予定を組み直す。
空になった容器を洗う。
こうした細かな作業は、ほとんど私がやっていた。
夫は、「言ってくれれば俺もやるよ」と言った。
でも、問題は「言えば手伝う」ことだけではなかった。
荷物が届くたびに、私が全部考えなければならないこと自体が疲れていた。
「あなたからも、お義母さんに量を減らしてって言ってくれない?」
そう頼んだ。夫も一度電話をしてくれた。
「食べきれないから、ちょっと控えて」
ただ、義母からは、
「そっちで食べればいいじゃない。家族なんだから」
と言われたらしい。
夫も、「まあ、悪気はないんだよ」で終わらせてしまった。
義妹が冷蔵庫を見て驚いた
ある休日、義妹が遊びに来た。
飲み物を取ろうと冷蔵庫を開けた瞬間、
「え、何これ」と声を上げた。
中には、義母から届いた保存容器が何段も重なっていた。
「ほとんどお義母さんから」
私が答えると、義妹は驚いた。
「こんなに送ってるの?」
「毎週じゃないけど、結構頻繁に」
「うちにも送ってくるけど、ここまでじゃないよ」
その言葉を聞いて、少しほっとした。
私が神経質すぎるわけではなかったのだと思った。
義妹は夫にも聞いた。
「お兄ちゃん、これ全部食べてるの?」
夫は冷蔵庫を見ながら、
「いや、結構残ってるな」と答えた。
義妹は、「お母さん、余らせたものを兄ちゃんちに移してるだけになってない?」と言った。
夫は何も返さなかった。
「もう一回、俺から言う」
義妹が帰ったあと、夫が言った。
「これ、俺がちゃんと言わないと駄目だったな」
私は、「送ってくれる気持ちが嫌なわけじゃないんだよ」と答えた。
「ただ、突然大量に来るのがきつい」
「分かった」
その夜、夫から義母へ電話した。
今回は隣で聞いていた。
「母さん、食べ物送ってくれるのはありがたいんだけど、今後は送る前に聞いて」
義母の声が電話から漏れてくる。
「でも食べられるでしょう?」
「食べきれないから言ってるんだよ」
「冷凍すればいいじゃない」
「冷凍庫もいっぱい。こっちはこっちで買い物してるから」
夫は少し間を置いて続けた。
「これからは、事前に聞かずに送られても受け取れないことがあるから」
義母は、「せっかく作ったのに」と不満そうだった。
でも夫は、「作る前に聞いてくれればいいんだよ」と返した。
私はその言葉を聞いて、ようやく少し安心した。
それでも、もう一度届いた
話をしたからといって、すぐには変わらなかった。
数日後、また荷物の配達予定が入った。
夫が義母に確認すると、
「少しくらいなら大丈夫かと思って」と言われた。
今回は夫が、「今日は冷蔵庫に入らないから受け取れないよ」とはっきり伝えた。
そして、実際に受け取らなかった。
義母はかなり不満そうだった。
私も少し罪悪感があった。
食べ物を無駄にしてしまうのではないか。
せっかく用意してくれたのに。
そう考えた。
でも、そこでまた受け取れば、「結局送れば何とかしてくれる」となってしまう。
夫も、「これは俺が母さんと決めることだから、気にしなくていいよ」と言った。
以前なら私が義母との間に立っていた。
今回は、夫に任せることにした。
「これいる?」と聞かれるようになった
しばらくして、義母からメッセージが来た。
「煮物多めに作ったけど、いる?」
私は冷蔵庫を確認した。その週は少し余裕があった。
「少しだけならお願いします」と返した。
すると、「分かった。じゃあ少なめにするね」と返事が来た。
別の週には、「お肉余ってるけど送ろうか?」と聞かれた。
そのときは予定が詰まっていたので、
「今週は大丈夫です。また今度お願いします」
と返した。
「了解」それだけだった。
以前のように、「家族なんだから」と言われることは減った。
完全になくなったわけではない。
たまに、「これくらい食べられるでしょう?」と言われることもある。
そんなときは夫も、「今いらないなら、いらないでいいじゃん」と返すようになった。
冷蔵庫を見るたびに思う
今は、冷蔵庫を開けても中身を把握できる。
自分たちで買った食材と、必要な量だけもらったもの。
それだけだ。以前はチャイムが鳴るたび、
「また冷蔵庫を空けなきゃ」
と思っていた。
善意なのだから断ってはいけないと思っていた。
でも、送る側が善意かどうかと、受け取る側に余裕があるかどうかは別の話だった。
ありがたいときは、「ありがとう」と言えばいい。
いらないときは、「今回は大丈夫」と言っていい。
それだけのことだった。
そして何より、夫の母親とのやり取りを、私一人が抱える必要もなかった。
今では義母から連絡が来ると、夫と一緒に冷蔵庫を見て決める。
「今週はいる?」
「いや、いっぱいだからやめよう」
そんな短いやり取りで済む。
玄関のチャイムも、以前ほど怖くなくなった。
さいごに
食べ物のおすそ分けは、ありがたいことも多いものです。
でも、量やタイミングが合わないと、受け取った側には保存や献立変更、片づけなどの負担が生まれることもあります。
「善意だから断れない」と我慢するのではなく、送る前に確認してもらう、必要な量を伝えるなど、お互いが無理をしない形を決めることも大切なのかもしれません。
身内から「ありがたいけれど多すぎる」贈り物が続いたら、あなたならどの段階で「もう十分です」と伝えますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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