パートのシフトを終えてそのまま幼稚園へ迎えに行くのが日課です。
そして園庭の端で子どもが靴を履き替えるのを待つ間、ママ同士が少し立ち話をするのがいつもの流れでした。私は動きやすさ優先で、服もバッグも手持ちのもので回していました。
最初はバッグの値段を聞かれるだけ
送迎後、ママ友五人ほどで輪になって話すようになりました。その中のミユさん(仮名)は、ブランドもののバッグやアクセサリーが目立つ人でした。
最初は「そのトート、軽そうですね」程度でしたが、次第に「どこのですか?」「いくらくらいですか?」と質問が細かくなりました。
返事をするたびに、ロゴを探すように目線が動くのが分かり、こちらが品定めされている気がしました。
私が「ネットで買った安いものです」と笑うと、ミユさんは「普段使いなら十分かも」と結論づけるように言いました。笑顔なのに採点表を付けられているようで、水筒のふたを無意識に締め直していました。
「旦那がすぐブランド品買ってくれるの~」の矛先
ある日、別のママが「最近、服かわいいね」と誰かを褒めたのをきっかけに、ミユさんの自慢が加速しました。「うちは夫がね、忙しいからこそ良いものを買ってくれて」と、話題が持ち物の格付けに寄っていきました。
その流れで私のナイロンバッグに目が止まったのか、ミユさんは「そういうのって、便利だけど……」と言いながら少し間を置きました。周りのママも「あ、まずいかも」という空気になり、笑いが薄くなりました。
そして追い打ちのように、ミユさんが声を少し張りました。
「ねえ、そういうの持ってると、全体が安っぽく見えない?」
私は返す言葉が出ず、砂を払うふりをして視線を落としました。
さらにミユさんは、こちらの反応を確かめるようにショルダーの金具を指で鳴らしながら言いました。
「うちはさ、旦那がすぐブランド品買ってくれるの~」
軽い口調なのに、「買ってもらえない側」をまとめて下に置く響きがありました。
さっと帰ることにしました
それから私は、ミユさんの持ち物を話題にしないと決めました。
以前は場を丸くするために「素敵ですね」と言ってしまい、その一言を合図に自慢話が長く続いていました。しかし褒めないでいると、ミユさんも次の自慢の切り口を見つけにくいのか、会話がふっと途切れる瞬間が増えました。
沈黙ができたところで、私は「では、先に帰りますね」と区切り、子どもの手を取って駐輪場へ向かいました。
帰り道、子どもが「今日ママ、早く帰ったね」と言いました。
私は「夕飯の準備があるからね」と答えましたが、本当は、品定めされる場所から一歩引きたかったのです。
数日後には輪に入らず、必要な連絡は先生や連絡帳で済ませました。自分の時間とストレスを守るためには効果的でした。
送迎に来たのは彼女ではなく旦那さん
五月に入った頃、ミユさんの姿が園庭から消えました。
代わりに、無地のポロシャツ姿の男性が子どもの手を引いて来るようになりました。ミユさんの旦那さんでした。
初日は「今日はお父さんなんですね」と誰かが軽く声をかけ、旦那さんは「しばらく自分が来ます」とだけ短く答えました。
表情が硬く、立ち話に入る様子もなく、受け取りが済むとすぐ帰っていきました。その様子を何度か見るうちに、「家庭の事情で役割が変わったのかもしれない」と感じました。
数日たってから、別のママが「聞いた話なんだけど」と前置きしたうえで、事情を教えてくれました。
ミユさんは「旦那さんが買ってくれる」と話していた一方で、実際は家計に内緒で分割払いや借入れを重ねていたらしい、という話でした。支払いの督促が自宅に届いて発覚し、夫婦で揉めたとも言っていました。
その後ミユさんは実家に戻り、離婚に向けて話し合い中だそうです。
園の送迎も、生活の段取りと園での視線を避ける目的で、旦那さんが引き取ったという噂でした。どこまでが事実かは私には確かめようがありませんが、少なくとも送迎の担当が変わり、あの立ち話の中心人物がいなくなったのは確かでした。
私は先に距離を取っていましたし、相手側の事情でも立ち話は自然に消えていきました。
服やバッグを見られる緊張がなくなっただけで、送迎時の空気が驚くほど軽く感じられるようになりました。比べる会話がないだけで、毎日はこんなに静かで、十分だと思えるようになりました。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

コメント