付き合い始め、「席取りは任せて」と胸を張る彼が少し頼もしく見えた。
けれど、デートを重ねるほど帰り道にため息が増えた。私の「ここがいい」は、いつも見なかったことにされる。
彼「押さえた」私の希望は?
カフェでは、彼が席を決めて待っている。
「ここ、光が入って写真がきれいに撮れるよ」
確かに映える。でも冷房の風が直に当たる場所は苦手だ。奥のソファ席を指さして「できればあっちがいい」と言うと、彼は小さく笑って肩をすくめた。
「せっかく調べて確保したのに。センスないな」
その言い方に、話を続ける気力がしぼむ。結局、彼の選んだ席に座った。
映画も旅行も、全部『俺基準』
映画館でも同じ。彼は「スクリーンが一番きれいに見える」とセンター後方を押さえていた。
私はもう少し前寄りの席のほうが見やすくて、「次は少し前のほうにしない?」と伝えたことがある。
彼はチケットをひらひらさせて「それ、もったいないよ。ここが正解」と笑った。
旅行のときはさらにくっきり出た。
チェックインして通されたのは、建物の内側に面した部屋で、小さなすりガラスの窓が一つだけ。
景色を楽しみにしていた私は「景色の見える部屋に変えられないか、聞いてみてほしい」とお願いした。
彼は少し間を置いてから言った。
「お前ってわがままだよな。せっかく手配したのに」
その夜はよく眠れず、朝になっても気持ちが沈んだ。
先回りは優しさ? それとも押しつけ?
彼が先回りしてくれるのは助かる。
けれど、私が違う希望を出すたびに機嫌が悪くなるなら、私は口を閉じるしかなくなる。デートの相談は、「彼のベスト」に私が合わせる作業みたいになっていた。
寒い席が嫌なのも、映画を前のほうで見たいのも、旅先で景色を楽しみたいのも、大げさな要求ではないはずだ。
それなのに私は、いつの間にか希望を口にする前に「またわがままって言われるかな」と考えるようになっていた。
そこでようやく気づいた。
問題は、どの席が正解かではなかった。
私が「こっちがいい」と言ったとき、それを一つの希望として聞いてもらえるかどうかだった。
次に同じことがあったら、黙って合わせるのはやめよう。それでも「俺のほうが正しい」と押し切られるなら、その日は帰っていい。
手帳に書いていた「寒い席は避けたい」「映画は前寄り」「旅先は景色が見える部屋」というメモを消した。
代わりに、一つだけ書いた。
「私の希望も、ちゃんと聞いてくれる人と出かける」
さいごに
先回りの親切と、相手の都合の押しつけは、表面がよく似ています。
何を選ぶか以上に大切なのは、相手が「私はこうしたい」と言ったとき、それを聞こうとしてくれるかどうかなのかもしれません。
希望を口にしただけで「わがまま」と返される関係なら、我慢して合わせ続ける必要はありませんよね。あなたなら、どこで「これは親切じゃない」と感じますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。


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