結婚して10年。私はずっと夫を「誠実な人」だと思ってきた。
けれど先月のある朝、洗濯前に夫のズボンのポケットを確認していて見つけた一枚のレシートから、胸のどこかが落ち着かないまま止まっている。
「気のせいだよ」と笑う夫
レシートは、平日のランチのものだった。
小さな定食屋の名前と、二人分の会計。
何気なく裏返すと、余白にボールペンで短い文字が残っていた。
「今日はありがとう。また行きましょう♡」
その下には、女性らしい名前が書かれていた。
私の名前ではない。その夜、夫に見せた。
「これ、誰?」
夫はレシートをちらっと見て、すぐに返した。
「職場の後輩だよ。一緒に昼食べただけ」
「これ、後輩が書いたの?」
「そう。別に変な意味じゃないよ。気にしすぎ」
夫は少し笑った。声の調子も、表情も、いつもとほとんど変わらない。
それが逆に引っかかった。
積もっていた小さな違和感
考えてみれば、気になることは少し前からあった。
半年ほど前から、夫はスマホを伏せて置くことが増えた。
以前は食卓にも画面を上にしたまま置いていたのに、最近は裏返す。
理由を聞いたことがある。
「通知が光ると気になるから」
それだけだった。
仕事も、以前はほとんど定時で帰ってきていた。
それがここ数か月は、週に二、三度、夜8時を過ぎるようになった。
「最近、遅いね」
そう言うと、
「今ちょっと繁忙期なんだよ」
と返ってくる。
休日にも、近所のコンビニへ行くと言って出たまま、1時間近く戻らないことがあった。
「遅かったね」
「知り合いに会って話してた」
別の日には、
「ちょっと歩いてきた」
どれも、あり得ない話ではない。だからこそ、何一つ「嘘だ」と言えなかった。
話し合っても霧が晴れない
ある夜、勇気を出して切り出した。
「最近、なんか変じゃない?」
夫は首をかしげた。
「何が?」
穏やかな声だった。
私は、帰宅時間のこと、スマホのこと、そしてレシートのことを順番に話した。
夫は一つずつ答えた。
「仕事は忙しいって言っただろう」
「スマホは隠してるつもりないよ」
「ランチは本当に後輩と行っただけ」
少し間を置いて、夫はスマホをテーブルに置いた。
「そんなに気になるなら、見てもいいよ」
私は画面を見た。でも、手を伸ばせなかった。
「後輩のことだって、必要なら本人に確認してもらってもいい」
そこまで言われると、今度は私のほうが疑いすぎているような気がしてくる。
怒鳴られたわけでもない。話をそらされたわけでもない。
むしろ夫は、ずっと落ち着いている。だから言葉が続かなかった。
自分の感じ方のほうがおかしいのではないか。そう思い始めてしまうことが、一番こわかった。
それでも日常は続いていく
確かな証拠はない。
決定的な嘘を見つけたわけでもない。
夫は今日も変わらない。
玄関を開けて、「ただいま」と笑う。
一緒に夕飯を食べ、テレビを見て、いつもの時間に眠る。
私だけが、その日常の隙間から何かを探している。
帰宅時間。伏せられたスマホ。長くなった外出。
そして、あのレシートの裏に残された文字。
一つだけなら気にしなかったかもしれない。
でも、いくつか重なると、どうしても頭から離れない。
夫を信じたい。
一方で、「何もない」と自分に言い聞かせ続けることにも疲れてきた。
どちらが正しいのか、今も分からない。
今夜も夫の隣で目を閉じる。
それでも胸の奥では、まだ小さな違和感だけが消えずに残っている。
さいごに
一つひとつには説明がつくのに、なぜか違和感だけが消えない。
そんな状況では、「相手を疑っている自分のほうがおかしいのでは」と思ってしまうこともあります。
信じたい気持ちと、きちんと確かめたい気持ちは、必ずしもどちらか一方を選ばなければならないものではないのかもしれません。
あなたなら、小さな違和感がいくつも重なったとき、どこまで確かめますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

コメント