食器を片づけ終えた夜、夫が湯のみをコトンと置いた。
「母さん、ここで暮らさせる。君の寝室は空けて」
二人で背伸びして買った2LDK。廊下は狭く、段差も多い。私は手を止めた。
「母さん同居する、寝室あけて」と夫
「急だね。お義母さんに直接聞いたの?」
夫は眉を上げた。「通夜の帰りに『うちに来る?』って言ったら、うんって頷いたよ。反対する理由ないでしょ」
私はその場面を思い出した。四十九日の前、義母は私に小声で言っていた。「まだ自分でできるから。迷惑かけたくないのよ」
「それ、社交辞令かもしれないし、ちゃんと聞こうよ」と言うと、夫は肩をすくめた。「長男として当然。君は合わせてくれれば回る」
「家族最優先だろ?」の一点張り
私が仕事の予定を見せても、夫は同じ調子だった。「家族最優先だろ?俺は稼ぐ係。君は在宅で調整きくじゃん」
「私の寝る場所は? 2LDKだよ」
「リビングにソファベッド置けば寝られるって。書斎は机を小さいのにするから」
決めるのは夫、回すのは私。廊下は狭く、段差も多いので想像するだけで、怖くなった。
「任せて◎介護仕様にするね」
私は方向性を変えた。「分かった。家族最優先でやろう。段取りは引き受ける。名義や費用はあなたで進めるね?」
夫は即答した。「助かる。やっぱ君は話が早い」
翌日、地域包括支援センターに電話した。義母は膝が悪くて杖を使っている。夜のトイレ移動も不安定だ。担当さんは「手すりと段差解消、トイレまわりの補強、介護ベッドがあると安心」と教えてくれた。
工務店に下見を依頼し、手すり、段差解消スロープ、トイレまわりの補強の見積もり。福祉用具レンタル会社から介護ベッドとマットの提案。見積書の契約者欄は夫の名前で作ってもらった。
動線を確認するため、私は夫に声をかけた。「廊下を車いす幅で通せるか見たいの。棚を1本だけ仮にずらしていい?」
「いいよ。机はどうする?」
「折り畳みサイズを段ボールで再現して置いてみる」
私は箱に詰めた本を納戸に一時置きして、通路幅を測った。私の寝室は義母の部屋になる想定で、カーテンと照明は昼夜の切り替えがしやすいものを候補に。
同時に、当番表も作った。夫の口癖「家族最優先」「長男として」をそのまま反映。平日の朝夕の見守り・服薬確認・夜間のトイレ対応は夫。私は日中の通院同行や買い物、土日の入浴介助と掃除担当。無理な日は外部サービスを入れる欄も作った。
初期改修の自己負担見込みは約20万円、月々のレンタル・消耗品で6万円前後。引き落とし口座は夫の給与口座に設定予定、と付箋を貼った。
「当番表、今ここで決めよう」
週末の夜、私はファイルをテーブルに置いた。見積書、スケジュール、当番表。夫の目が行き来する。
「この計画でいくなら、ここにサイン。住宅改修は火曜に入りたいって。キャンセルは月曜の午前まで。当番はこの通りでいい?」
夫が当番表を指で追った。「平日の夜も俺? 会食も出張もあるし…」
「あなたの『家族最優先』で組んだよ。私も仕事あるし、どちらかが倒れたら意味がない。全部家でやるか、外の力も使うか、選ぼう」
夫は廊下を見て、段ボールの机に触れた。「…書斎、半分ないんだね」
「車いすが通れないと危ないから。『寝室は母さんに譲れ』ってあなたが言った結果だよ」
「無理だ、現実が見えた」と夫
しばらく沈黙のあと、夫が言った。「正直、ここまでとは思ってなかった。俺が回せる量じゃない。ごめん」
私はうなずいて、スマホを取り出した。「じゃあ、同居は一旦やめて近くに住んでもらう案と、外部サービスを組み合わせる案をお義母さんに聞いてみよう」
スピーカーフォンにして義母に電話する。「同居と、近くに部屋を借りるのと、どちらがいいですか?」
義母ははっきり言った。「近くにお部屋を借りるほうが助かるよ。まだ自分でできることはやりたいし、迷惑はかけたくないの」
夫が小さく「そうか…」とつぶやいた。
見積もりは一旦保留。翌週、徒歩圏の一階の賃貸を内見して契約。デイサービスと訪問支援を手配した。夫は週2回の夕方の見守りと、月の費用の一定額を自分の口座から出すことに同意した。
その後、近居と外部サービスで回し始めた
同居の話は消えたが、義母との距離は縮まった。平日は外部の人が入り、土日に私が買い物や掃除。夫は当番の日に夕方直帰して義母の様子を見て、必要な連絡を取る。
私の寝室はそのまま。仮で寄せた棚は、動線の邪魔にならない位置に小さく収まった。ファイルの一番前には「無理なら切り替える」のページを残してある。決めた役割が回らなくなったら、外に頼る。そう決めてから、私は前より穏やかに義母に向き合えるようになった。
さいごに
相手の言葉をそのまま形にすると、負担の大きさがはっきり見えることがあります。家のこと、親のこと、一人で抱え込むとつらいですよね。どこまで自分たちで担って、どこから外に頼むか。あなたなら、どうやって決めますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。



コメント