仕事帰りの特急。自分への小さなごほうびに、窓側の指定席を取っておいた。熱いお茶と駅で買ったサンドウィッチ、本を開いてのんびり帰るつもりで、番号どおりの席に向かったら、見知らぬ母子が座っていた。
「子連れなんで替わって?」と先に言われた
「すみません、ここE席ですよね?」と声をかけると、母親がこちらを見て言った。
「子連れなんで替わってもらえますか?」
4歳くらいの男の子が窓に顔を寄せている。私は手に持っていた指定券を見せた。
「この席、私の番号なんです。お席の番号、見せてもらえますか?」
母親は肩をすくめた。「子どもが窓見たいの。あなた通路でいいじゃん」
「今日は窓側を予約してるんです。番号の確認だけ、お願いします」
母親は視線をそらし、「前はみんな譲ってくれたよ」と言った。私は「今日は譲れません」と短く返した。
「窓側じゃないと困るの」押してくる
周りの人がこちらをうかがっている。母親は続けた。
「ほら、ぐずられたら困るでしょ。窓側じゃないと落ち着かないの」
「そうなんですね。でもこの席は私が予約しました。お手元の番号、見せてください」
男の子は飽きたのか、シートの背を指でたたき始めた。母親は注意もせず、「細かいね、たかが席で」と笑って、さらに言う。
「ねえ、通路に行ってよ。そこ空いてるでしょ」
「通路には座れません。切符に書いてある席に座ります」
このまま押し問答を続ける気はなかった。私は荷物を足元に置き、通路側の壁にある呼び出しボタンを押した。
「係の方、呼びますね」とベルを押す
「係の方、呼びますね」
母親は鼻で笑った。「大げさ」
私はデッキに出て、来た車掌さんに事情を伝えた。「私の指定席に他の方が座っていて、番号の確認に応じてくれません」
「承知しました。ご案内します」
車掌さんは私と一緒に座席まで戻った。
車掌「切符、拝見します」
「こちらのお客さまの座席、番号の確認をお願いします」と私。車掌さんがうなずく。
「切符、拝見します」
私は手元の指定券と特急券を差し出した。車掌さんが「5号車E席ですね」と番号を確認し、すぐ返してくれる。
「次に、こちらのお客さまの切符をお願いします」
母親はバッグを探り始めた。しばらくして取り出したのは、乗車券と特急券。車掌さんが目を通す。
「こちら、自由席の特急券です。指定席のご購入はありません」
母親の口が止まった。「でも、子どもが——」
「自由席は別の車両にございます。この車両は指定席です。ご移動をお願いします。もし指定席をご希望でしたら、空きがあればこちらで手続きできます」
「子どもがいるのに!」食い下がる母親
母親は声を上げた。「子どもがいるのに! ちょっとくらい——」
車掌さんは落ち着いた声で言った。「皆さま、切符どおりにご利用いただいています。こちらの席にお座りになるには、指定席券が必要です」
男の子が「おなかすいた」と言い、母親は一瞬こちらをにらんだが、言い返すのをやめた。
「自由席の空席を確認します。いくつかございます。ご案内します」
母親は渋々立ち上がり、荷物を肩にかけた。男の子の手を引いて通路に出る。すれ違いざま、「感じ悪い」と小さく言ったのが聞こえた。
車掌さんは私に向いて言った。「お待たせしました。こちらがご予約のお席です」
私は「ありがとうございます」と頭を下げ、やっと荷物を網棚に上げた。
その後、いつもの窓辺に戻った
座ってお茶のフタを開ける。発車のアナウンスが終わり、ホームがゆっくり後ろに流れていく。メモしておいた読みかけのページを開き、サンドの包みをはがした。
数分後、車内販売ワゴンの向こうに、さっきの親子が座っているのが見えた。別の車両の自由席だろう。男の子はお菓子をつまんでいて、落ち着いた様子に見えた。
今日は、前もって取った席をそのまま使いたかった。うまく話が進みそうにないときは、係の人に間に入ってもらう。切符を見てもらえば、話は早い。
私は本のしおりを指で押さえ、外に目をやった。遠くの街灯が点の列になり、温かいお茶の湯気がゆらいでいた。
さいごに
指定席に座るのは、前もって安心を買うこと。そこを“当然”でずらされると、もやっとしますよね。頼れる人がいる場なら、任せるのもひとつの手です。
譲る・譲らないの判断、迷う場面は多いもの。あなたなら、声をかけられたとき、どうしますか?
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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